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写真:19世紀にイギリスで創業した「アルバン・アトキン薬局」の再現展示

鳥栖の歴史を遊んで学ぶ! 貴重な蒸気機関車とくすり博物館

中島丈晴
2024年08月30日

佐賀県東部の鳥栖市は九州の交通の要衝として知られる街。
古くは長崎と小倉を結んだ「長崎街道」が通り、明治以降は鉄道開業で旅客貨物の一大拠点になりました。そして、1970年代から80年代にかけて、九州内を南北に結ぶ九州自動車道と、東西に結ぶ長崎自動車道、大分自動車道が開通。鳥栖にこれらをつなぐジャンクションが出来、周辺には多くの物流拠点や工場が立地しました。そんな鳥栖の歴史に触れることができる鳥栖駅前の機関車、くすりの博物館を訪ねたいと思います。


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※すべて鳥栖市


鳥栖で活躍した貴重な近代化産業遺産「268号機関車」

写真:前方左寄りからの268号機関車。鉄柵と屋根がついている
鳥栖駅の東に展示されている鳥栖市重要文化財「268号機関車」

JR鳥栖駅の改札を出て、すぐ近くにある東西連絡通路「虹の橋」を渡りきったそばに小さな蒸気機関車「268号機関車」が展示・保存されています。
これは、明治時代に製造された「230形蒸気機関車」で、先輪1軸・動輪2軸・従輪1軸「1B1」という軸配置のタンク式機関車。イギリスの機関車を参考にして、国内で最初に量産化に成功した蒸気機関車だそうで、展示されている機関車は1905(明治38)年に「北越鉄道G形18号機関車」として製造され、鉄道国有法施行後に「230形268号」と改められました。

268号機関車がここに展示されているのは、鳥栖駅にかつてあった鳥栖機関区に配属されていたことから。昭和10年代から1954(昭和29)まで構内作業用の入換機関車として活躍したそうです。「鉄道のまち・鳥栖」を象徴する、市内に残された唯一の記念物として、2005(平成17)年に「鳥栖市重要文化財」に指定されました。
ちなみに、この「230形機関車」は現在、2両しか現存していないそうで、もう1両は、京都鉄道博物館に保存されている「233号」(国重要文化財)とのことで、貴重な近代化産業遺産といえます。

写真:運転台。計器や操縦レバー等が見える
一般公開時に実際に乗ることができる「268号機関車」の運転台

この「268号」機関車、普段は柵の外から見学…になりますが、管理する鳥栖市生涯学習課の担当者によると、隣接する「駅前不動産スタジアム」で開催されるサガン鳥栖のホームゲームの開幕戦や最終戦など年3回程度、柵の中に入れる一般公開されるとのことなので、タイミングが合えばぜひ。機関車の運転台に乗ることも出来ます。

写真:前方右寄りからの268号機関車
スポット情報(2024年8月30日現在)
スポット名 市重要文化財(歴史資料) 268号機関車
住所 佐賀県鳥栖市本鳥栖町(JR鳥栖駅東側)
電話番号 0942-85-3695(鳥栖市生涯学習課文化財係)
見学方法 ・柵外からの見学は24時間可能
・柵内の見学には事前に依頼書の提出が必要(ただし、団体見学が望ましい)
・年3回、公開日が設定される
※一般公開日は鳥栖市のホームページで告知されます
アクセス 【公共交通機関】
JR鹿児島本線・長崎本線「鳥栖駅」から徒歩すぐ
【車】
九州自動車道・長崎自動車道「鳥栖インターチェンジ」から約6分
九州自動車道「小郡鳥栖南スマートインターチェンジ」から約5分
備考 鳥栖市ホームページ|市指定重要文化財(歴史資料) 268号機関車を紹介します(外部リンク)

「鳥栖歴史文化交流展示室」で鳥栖の歴史を

「268号機関車」の案内をいただいた鳥栖市生涯学習課の方から、「ここからすぐの『サンメッセ鳥栖』に鳥栖の歴史を紹介している場所があるのでそちらにもぜひ」と教えていただいたので、訪ねてみました。

写真:「鳥栖歴史文化交流展示室」の全景。正面に地図オブジェクトとモニターがある。壁は全面展示棚となっており、土器や民具などさまざまな展示品が並んでいる
「鳥栖歴史文化交流展示室」

「鳥栖歴史文化交流展示室」。鳥栖市の歴史や文化をより広く、多くの方々に知ってもらえるようにと、今年5月にオープンしたばかりの展示室で、プロジェクションマッピングを使った映像展示や資料展示があります。

写真:大きなモノクロ写真のパネルが壁に掲示されている様子
1967(昭和42)年に撮影された鳥栖駅構内の航空写真

1967(昭和42)年に撮影された鳥栖駅構内の航空写真を見ると、当時の鳥栖駅構内の広さを感じることができ、当時、操車場や車庫などの施設があったエリアが、今は「サンメッセ鳥栖」や「駅前不動産スタジアム」に生まれ変わったことを知ることができます。

写真:ガラスケースの中に古い薬箱や薬袋、そろばんなどが展示されている様子
「田代売薬」を紹介する展示

そして、鳥栖市から基山町にわたる一帯(江戸時代の対馬藩領)でおこった、お客さんに薬箱を預け、後で使った分だけ料金をもらうという置き薬「配置売薬」についての展示もありました。
この「田代売薬」から、佐賀県の大きな産業の1つになった薬の歴史については、鳥栖市内にある「中冨記念くすり博物館」に行ってみたいと思います。

スポット情報(2024年8月30日現在)
スポット名 鳥栖歴史文化交流展示室
住所 佐賀県鳥栖市本鳥栖町1819 サンメッセ鳥栖1階
電話番号 0942-85-3695(鳥栖市生涯学習課文化財係)
営業時間 9時から16時30分
休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館)
料金 無料
駐車場 あり
アクセス 【公共交通機関】
JR鹿児島本線・長崎本線「鳥栖駅」から徒歩5分
【車】
九州自動車道・長崎自動車道「鳥栖インターチェンジ」から約6分
九州自動車道「小郡鳥栖南スマートインターチェンジ」から約5分
備考 鳥栖市ホームページ|鳥栖歴史文化交流展示室・鳥栖市立Web博物館(外部リンク)

日本のくすりの歴史と文化を学べる「中冨記念くすり博物館」

写真:中冨記念くすり博物館の正面外観
「中冨記念くすり博物館」

鳥栖駅から車やタクシーで約10分。木々に囲まれた静かな場所にちょっと未来を感じる建物が現れました。イタリアの彫刻家チェッコ・ボナノッテが基本設計を手掛けたというここが「中冨記念くすり博物館」です。

「鳥栖歴史文化交流展示室」でも展示がありましたが、鳥栖市田代から基山町にわたる一帯は、江戸時代中期に対馬藩の飛び地・田代領となり、「田代売薬」がおこりました。これが発展し、佐賀県の大きな産業の一つに成長しました。
ここ、「中冨記念くすり博物館」は、くすりに関する産業や文化を伝え、学ぶ場として、鳥栖市に本社がある「久光製薬」の創業145周年を記念し、1995年に開館しました。2021年4月にはリニューアルオープンし、体験コーナーも新設されたそうです。

写真:館内の様子。左側の壁一面がパネルとなっており、「くすりのかたちと投与経路」と題した展示がある。右側はガラス張りの展示ケースにくすりの投与経路モデルが展示されている

ここでは、広報の大坪真衣佳さんに、博物館の見どころを案内してもらいました。

写真:くすりの歴史を示した展示パネルの前に大坪さんが立っている様子。奥の壁はガラス張りで庭の木が見える
「中冨記念くすり博物館」広報の大坪真衣佳さん

1階は「現代のくすり・世界のくすり」のコーナー。くすりの歴史、医学の進歩に貢献した偉人について、12種類あるというくすりの分類や新薬を研究・開発し、実際に手に渡るようになるまでについて紹介しています。

一番人気のコーナーは、1897年にイギリス・ハムステッドで創業した「アルバン・アトキン薬局」を移設し再現したコーナー。店内を埋め尽くすようにくすりが入っている瓶や引き出しが並んでいて、映えスポットとして多くの方が写真を撮られるそうです。この空間を生かしたプロジェクションマッピングも楽しむことができます。

写真:手前に木製カウンター、奥に木製の重厚な薬棚がありガラス瓶や壺が多数並べられている様子
写真映えで人気、イギリス・ハムステッド「アルバン・アトキン薬局」を再現したコーナー

昭和時代の工場で製薬に使われた大型の蒸留装置などの機械も展示されています。

写真:大型のフラスコやガラス管をつなげた蒸留装置

「ミュージアムクイズ」。中冨記念くすり博物館やくすり全般について、タッチパネルで答えていくクイズコーナーです。難易度は、初級・中級・上級の3つ。2階の展示を見た後にここに戻ってきてチャレンジするとパーフェクトが狙えるかもしれません。

写真:円形卓の上にタッチパネルが3つ置かれている。タッチパネルに「ミュージアムクイズ」というタイトルと、初級・中級・上級のボタンが表示されている。卓上に「2階展示も見てチャレンジすればパーフェクトできるよ」のポップが掲示されている

2階の北側は「むかしのくすり・田代売薬」のコーナー。日本のくすりの歴史、日本四大売薬のひとつである「田代売薬」の発祥や発展の歴史、昔のくすり作りの道具と作り方、くすりの生薬、看板など、日本のくすり文化を楽しむことができます。

写真:生薬の原料が展示されているコーナー。ガラスケースの中に木製の棚があり、鉱物性・植物性・動物性に分類された原料が並べられている
写真:田代売薬で使用されていた行商人の道具や装身具などを展示したコーナー。壁面には「免許売薬営業」とかかれた木製の大きな看板が展示されている

江戸時代の薬舗(=くすり屋)の展示では、くすり行商が背負った柳行李(やなぎこうり)を背負うことができます。大坪さんが実際に背負って見せてくださいました。

写真:江戸時代の薬舗を再現した展示コーナーの前に、柳行李と菅笠を身に着けたくすり行商スタイルの大坪さんが立っている様子
くすり行商が背負った「柳行李」を背負うことができる。

2階南側は、体験型展示のコーナーで、くすりとなる植物について学べたり、香りを体験したりできます。

写真:薬用植物の展示コーナー全景。2段になった展示台に、薬用植物のサンプルが入っているフラスコと説明パネルが多数並んでいる
写真:薬用植物の展示の一部。キンモクセイ、赤紫蘇、レモングラス、トウシキミが並んでいる
くすりとなる植物「薬用植物」のコーナーでは、植物ごとに香りを体験できる
写真:薬用植物の展示の一部。クチナシ、ショウズク、ショウガ、オールスパイス、コエンドロが並んでいる
展示の中にはおなじみの植物も

また植物をぬり絵し、プロジェクターで投影して楽しむ「バーチャル薬草園」があります。

写真:手前の長机にアジサイの絵がおかれている。卓上のプロジェクターで、奥の壁に張られたスクリーンにアジサイの絵を投射している様子
「バーチャル薬草園」は、自分たちで描いたぬり絵を投影台に置くと、プロジェクター通じて映してくれるという体験コーナー
写真:女性がモニターの前に立ち両手を挙げている様子。モニターには女性が写っており、モニター横にゲームの説明パネルが掲示されている
2階にある「しっぷハリハリゲーム」。画面内に降ってくるシップを体を動かし、画面に映る自分のからだに貼っていくというゲーム。子どもに人気だとか。

そして1階から出ることができる屋外には「薬木薬草園」。約2,600平方メートルの広さに約350種類の薬用植物が季節ごとに花を咲かせます。
多くの花が咲く春と秋はこれらの花の写真を撮りに、中には自身のカメラ携えて来場される方も多いことから、春と秋にはフォトコンテストを開催しているそうです。

写真:薬木薬草園の様子。小道の両側に花壇があり、左手前にシャクヤクが咲いているほか、多くの薬草が植えられている。花壇の奥には樹木が植えられている
「薬木薬草園」(写真提供:中冨記念くすり博物館)

最後にエントランスにあるグッズコーナー。博物館の展示図録や絵はがきも販売しているのですが、このコーナーのコンセプトは「笑顔は万病のくすり くらしに笑顔をうむデザインプロダクト」と題して、思わずクスッと笑ってしまうような楽しいデザインアイテムを各地から取り寄せ、販売しています。手にしてみてはいかがでしょうか。

写真:ユニークな表情がついた、ナスやピーマン、みかんなどの野菜やフルーツ型のボールが商品棚に置かれている様子。「CAOMARU」の説明ポップが添えられている
「笑顔は万病のくすり くらしに笑顔をうむデザインプロダクト」と題して取り寄せた「CAOMARU」

大坪さん
「9月から、昭和時代のユニークなデザインや独特のキャッチフレーズが書かれた薬袋を集めた企画展『ミラクル・ペーパー 昭和薬袋博覧会』を開催します。今では見ることができない昭和の薬袋の世界を楽しみにぜひおこしください!」

写真:企画展チラシが卓上に置かれている様子
9月から開催する企画展「ミラクル・ペーパー 昭和薬袋博覧会」の案内
スポット情報(2024年8月30日現在)
スポット名 中冨記念くすり博物館
住所 佐賀県鳥栖市神辺町288-1
電話番号 0942-84-3334
営業時間 10時から17時(最終入館16時30分)
定休日 毎週月曜(祝日の場合は火曜に振替)・年末年始
料金 大人:300円、高校・大学生:200円、小中学生:100円
※団体(20人以上)や各種会員証による割引料金あり
※青少年学習機会の充実のため、小学生から大学生は土曜・日曜・祝日入館料無料
駐車場 あり
アクセス 【公共交通機関】
■JR鹿児島本線・長崎本線「鳥栖駅」から
タクシー約10分、徒歩約40分
鳥栖市ミニバス「田代地区循環線」利用「中冨記念くすり博物館前」下車徒歩2分
※ミニバスは火曜・木曜・土曜のみ運行
■JR長崎本線・九州新幹線「新鳥栖駅」から
タクシー約10分、徒歩約50分
■JR鹿児島本線「弥生が丘駅」から
タクシー約3分、徒歩約25分

【車】
九州自動車道・長崎自動車道「鳥栖インターチェンジ」から約5分
備考 中冨記念くすり博物館ホームページ(外部リンク)

中冨記念くすり博物館

詳細情報を見る

交通の要衝・鳥栖のまちの歴史に触れながら、あわせて、佐賀の大きな産業になったくすりのことを楽しく体験してみてはいかがでしょうか。

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中島丈晴

佐賀を訪れる人は街や町、スポットを創り上げる人々とそこに至るストーリーに共感されているのではと感じています。
『佐賀経済新聞』運営や『佐賀バルーンフェスタ』広報等を担う中でふと気づく、佐賀の人やスポットのストーリーをお伝えしていきます。

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    愛知県岡崎市出身。お試し移住などを体験し、佐賀の虜に。
    現在は海の近く唐津市に拠点を置き、フリーランスで活動中。歴史、やきもの、温泉、おいしい食べ物…そして人の温かさ。佐賀の魅力は数え切れないほど。楽しみながら魅力発信をしていきます!

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